ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.13  めまいと漢方治療


めまいは「眩暈」(げんうん)と書きますが、漢方では「目眩」(もくげん)と「頭暈」(づうん)を合わせたものです。目眩とは目がくらむ、目の前が暗くなるさまを、頭暈は頭がふらふらする、平衡感覚がなくなる感じをあらわしています。
めまいには、自分や周囲がぐるぐる回ってみえる「回転性のめまい」、回転感を伴わないふらつき、歩行中に体が左右にゆれるような「動揺性のめまい」、起立性低血圧などによる「立ちくらみ」、さらに血圧の上昇時や脳の血流障害によるめまい、自律神経失調症にともなうめまい、などがあります。低頻度ですが急性のめまいのなかには小脳出血、脳梗塞などの生命に危険な病気もありますので、まずは脳神経系の除外診断(CTやMRI検査)も大切です。

めまいの代表的な病気の「メニエール病」は内耳のリンパ水腫が原因といわれ、回転性めまいに耳鳴り、難聴、はきけなどをともなう発作を数か月、数年ごとに繰り返す病気です。「良性発作性頭位めまい」は起床時や寝返りをうつなど頭の位置がかわるときに起こるめまいです。めまいの発作時には現代医学的にめまいを鎮める薬物(メイロン点滴注射など)が、慢性期には発作予防のための薬物療法(メリスロンなど)がおこなわれます。
さて、漢方治療は主として慢性期にめまいを鎮め、体質改善を目的としておこなわれます。漢方ではめまいの原因として、水毒(体内水分の調節障害、リンパ水腫も水分代謝の異常、水毒と考えます)、瘀血(おけつ。血の巡りが悪い)、気の上衝(じょうしょう。のぼせ、動悸、精神不安)などととらえて治療します。

めまいに日常診療でよく用いられる漢方薬をあげてみましょう。
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は水毒や気の上衝を治してめまいを改善します。頭が重い、肩がこる、疲れやすい、朝が起きにくい、神経質、不安感、動悸をおこしやすい、などの人のめまい、ふらつき、たちくらみに頻用される処方です。     
半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)は、胃腸虚弱で水毒による頭痛、水太りや体が重いような人のメニエール病、種々のめまいに用いられます。      
釣藤散(ちょうとうさん)は朝方の頭痛、ふらつき、いらいら感や高血圧、動脈硬化などをともなうような人のめまいに用います。                     
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は女性で冷え症、血のめぐりが悪く、むくみやすい人のめまいに、加味逍遙散(かみしょうようさん)は更年期自律神経失調や精神不安、ストレスが多い女性のめまいに用いられます。                  
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は不安感、不眠、のどや胸がつまった感じの人のめまいに用います。
また、難治性のめまいでは西洋薬と漢方の併用によって治療効果が高まるでしょう。