ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






アトピー性皮膚炎と漢方併用治療(その2)


【皮膚科的治療について】

1)ステロイド外用剤(軟膏、クリーム、ローション)

個々のアトピーの皮疹の重症度や部位などにより、いろいろな強さのステロイド剤を使い分けます。主として、2群ベリーストロングクラス(ネリゾナ、マイザーなど)、3群ストロングクラス(プロパデルム、リンデロンVなど)、4群メディウムクラス(リドメックス、キンダベートなど)を中心に選定し、必要かつ十分な投与をおこないます。
たとえば、体の湿疹部には2群や3群を、顔には4群のように弱いものを、手指には2群を、というように、その時点での湿疹の病状、重症度と部位によって医師が使い分けを判断、指導いたします。
当初は集中的に、1日2回、4−5日間連続、長くても1週間以内、入浴やシャワーで清潔にした直後にしっかり患部にぬります。1週間というのは、通常の湿疹では、適切、十分量のステロイド剤をぬれば1週間以内に大多数例で赤み、痒みは消失し、ほとんどの患者さんで著明改善するからです。 
背部などの手がとどかない部分には家族にしっかりぬってもらいましょう。お子様にはお母さんやお父さんがやさしく丁寧にぬってあげましょう。ぬりかたでもっとも大切なことは、こすりつけるのではなく、皮膚の上にそっとのせるようにぬる、とよろしいのです。けっして強く力を入れてはいけません。力を入れてうすくのばしてぬっている人が多くみうけられるようですが、こすりつけることによる物理的刺激によって、かえって悪化しやすい患者さんがおられます。また、患部に炎症をおさえるのに必要十分な量のステロイドがまんべんなく塗布しにくい、という点から、できるだけ力を加えずに、自分の人差し指の先などでそっとやさしく、こころをこめてぬる、ようにしてください。

次に、ステロイドの使用量ですが、これは医師が診察のうえで決めて処方いたします。たとえば、手足や体にはこれこれの軟膏チューブを1週間で2本とか、3本とか、具体的に使用量の目安を指示するのは、医師の当面の役割です。

湿疹が高度で広範囲にわたる場合、ステロイド剤と保湿剤のプロペト軟膏(精製ワセリン)を1:1の割合で混和(Admix)したものなどを処方することがあります。この混和剤の場合、広範囲の患部にも患者さんにとってたいへんぬりやすいメリットがあり、ぬり残しが少なくなるためでしょうか、有効例がきわめて多いことを経験しております。(専門医によっては混和を嫌う先生もおられます)。
また、ステロイド剤の剤型として、『軟膏』と『クリーム』、とがありますが、私の経験では軟膏よりも『クリーム』のほうが、材質がやわらかく、ぬるときに力をいれる必要がない、物理的刺激を加えないで塗布できる、といった点で、クリームを選択したほうがより有効であるケースが多い、と実感しています。一方、じくじくした湿潤性の患部にはクリームではなく、軟膏を選択いたします。
私は皮膚科の専門医ではありませんが、私がご指導を受けている専門医のご意見からも、また、内科医としての診療経験からもそのように考えている次第です。ステロイドのローションはおもに頭皮の湿疹に用いられます。

炎症の軽快にしたがい、徐々にステロイドを減量していきます。たとえば、もし4日間塗って赤み、痒みがほとんど消失したら、1−3日休んでみて悪化しないかどうか、しっかり経過をみるのです。                            
ステロイドを休薬してたとえば、2日目には赤み、痒みが再燃したら、すぐさまステロイド剤を再開します。再開後、たとえば2−3日で軽快したら、また休薬することをくりかえしてやってゆけばよろしいのです。炎症が強い状態にあるほど、休薬できる期間もまだ短い傾向にあるように思います。                    
湿疹の再燃後、ただちにステロイドをぬらないで様子をみてしまい、さらにもっと悪化してしまってからようやくぬりはじめる患者さんがおられます。しかし、強い炎症状態を長く続けること自体が医学的にも心理的にも好ましいことではないと私は考えております。
アトピー性の湿疹は火事のようなものにたとえられますね。できるだけ初期のうちにステロイドという水をかけて消火し、燃え広がらないように先手をうつのがこつといえるでしょう。火事はぼやのうちに消せ、というのとほぼ同じような見方、考え方ですね。

炎症が改善していけば徐々にステロイドを減量し、さらに中止、離脱していくことも可能です。アトピーの炎症を十分に鎮静しうる薬剤で、その有効性と安全性が科学的に立証されている薬剤はステロイド外用薬であり、いかに適切にぬるかに尽きるのです。

2)プロトピック軟膏(タクロリムス軟膏)

免疫抑制剤「タクロリムス」を含有(0.1%)する軟膏です。顔面(かお)、頸部(くび)を主体に用いてきわめて有効です。本剤の皮膚科学会使用ガイドラインに準じて用いられておりますが、四肢(手足)や体全体にも応用されてきております。
ステロイド無効例、副作用(ステロイド皮膚症)の合併例や、ステロイド拒否の患者さんにとって救世主となったといえるでしょう。                  
投与開始後短期間の刺激性(ほてり、熱感、かゆみなど)がありますので、導入時の十分な指導が必要ですね。その点を除けば、長期使用によってもステロイド外用薬に見られるような皮膚萎縮、血管拡張などの局所副作用が生じない点がまさに大きなメリットなのです。 
日本では1日投与量の上限は10グラム、米国ではさらに大量。(ただし、妊婦は禁忌となっております。妊娠中はステロイド外用が中心となりますし、それでコントロールが十分可能です)。
小児にも、数年以上前に使用許可(小児用 0.03%軟膏)されたのはご承知のとおりです。         
易感染に注意しますが、わが国で発売6年後現在まで重篤な副作用報告はまったくありません。

さらに、体幹、四肢の重症例では、短期集中的に強力なステロイド外用によって皮疹を改善させた後に、速やかにタクロリムス軟膏にスイッチする sequential therapy がすすめられています。筆者も皮膚科専門医の指導をこれまで
受けながら現在積極的に使用してきました。重症の患者さんで、本軟膏を主体とし、ステロイド外用剤をほとんど用いずに良好なコントロールができている症例も増えつつあるのが事実です。

3)スキンケアのための外用薬

  • ヒルドイドソフト ヒルドイドローション(ヘパリン類似物質系)
  • プロペト軟膏(精製ワセリン)
    以上の2種類はほとんどの患者さんに処方され、実際にたいへん有効な保湿剤と考えております。

    そのほか、
  • アズノール軟膏(軽度の消炎作用を有する)
  • 尿素系(ケラチナミンなど)
  • 亜鉛化軟膏(ジクジク、湿潤性病変にたいして、ステロイド剤に重層して有効)
    などの保湿剤によって、乾燥肌、バリアー機能低下の改善をはかります。いずれも健保適用です。

  • 漢方軟膏
    以下のものがありますが、すべての人に適するわけではありません。体に合わない場合も少なくありませんので、専門医とよく相談してください。保険で使えるのは紫雲膏だけです。
    1.紫雲膏(紫根、当帰、ごま油、蜜蝋、豚脂。肌を潤す作用が強く、乾燥性病変に適する。潤肌膏に豚脂を加えた華岡青洲の創方)。
    2.中黄膏(黄柏、鬱金、ごま油、蜜蝋。発赤した皮疹に抗炎症作用あり)。
    3.太乙膏(当帰、桂枝、大黄、芍薬、地黄、玄参、白朮などと、ごま油、蜜蝋)。
    中黄膏、太乙膏は、漢方薬局などで市販されています。

  • 民間薬・・・椿油、オリーブオイル、その他。

    4)抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤
    とくに痒みをおさえる目的でしばしば用いられます。
    比較的短期使用ですむ例が多いのですが、長期服用が適する患者さんもあります。