ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.17  疲労倦怠感の漢方治療


疲労や倦怠感は、働きすぎ、睡眠や休養不足などにみられる、ありふれた自覚症状です。なかには治療が必要な貧血、糖尿病、肝臓病、腎臓病、癌や、うつ病などの病気が隠れている場合もありますので、注意が必要です。しかし、検査をしてもさしたる異常がなく、十分な休養や睡眠などをとっても回復しにくい場合も多いようです。

漢方では疲労倦怠感は『気虚』と関連が大きいと考えられています。気虚とは漢方的に、からだの機能をつかさどる気(目に見えないエネルギー)が不足した状態で、疲れやすい、だるい、元気がない、疲れがとれない、気力がない、横になっていたい、食欲がない、息切れ、などの症状があらわれます。気は、摂取された食物から胃腸などの消化吸収機能(脾と胃)によって作り出されます。この脾胃のはたらきが低下すると(脾虚、脾胃気虚などという)元気がなくなり、パワー不足になるとされています。また、脾で作られた気は、肺や天空の気のはたらきをうけて『血』(けつ)を生成し、生命の維持に必要なエネルギー(気)と栄養物質(血)を全身に供給しています。東洋医学では、この気、血が全身をとどこおりなくめぐっている状態が健康だと考えているのです。病気はなくてももともと虚弱で、気虚、脾虚などの体質の人もおります。

さて、疲労倦怠感によく用いられている漢方処方をあげてみましょう。


(1)補中益気湯(ほちゅうえっきとう):
気虚の代表的処方で、別名『医王湯』とも呼ばれます。疲労倦怠、手足がだるい、気力低下などを改善し、胃腸を丈夫にし、食欲不振にも有効です。急性の疲労にも効きます。胃下垂や脱肛などにも応用されます。体力、気力、感染に対する抵抗力などもつけますので、種々の病後や術後の体力低下、癌では制癌剤や放射線治療の副作用軽減などにも頻用されます。夏ばてには清暑益気湯(せいしょえっきとう)とともに有効です。

(2)十全大補湯(じゅうぜんたいほとう):
気と血の不足をともに補う処方です。気虚の症状に加えて、皮膚の色艶が悪い、やせる、貧血傾向などの『血虚』がみられる人に用います。過労が続いて心身ともにくたくたになっている場合や、各種の消耗性の病気に補中益気湯とならんで応用されています。

(3)人参養栄湯(にんじんようえいとう):
十全大補湯が合うような気血不足の人で、咳、痰などの呼吸器系疾患や精神的に消耗した状態などに適応します。

(4)六君子湯(りっくんしとう):
脾胃気虚に対する処方で、食欲不振、胃のもたれ、胃炎症状などをともなう疲労倦怠に用います。脾虚の体質改善に優れた処方です。

(5)真武湯(しんぶとう):
気虚が進んだ陽虚のため、疲労倦怠、気力低下があり、おなかや背中が冷え、胃腸が弱って下痢するような人に用います。

(6)八味地黄丸(はちみじおうがん):
いわゆる腎虚を補う処方で、加齢などによって下半身が冷え、疲労倦怠、腰痛、心臓の軽度機能低下、むくみなどに用います。胃弱には適しません。