ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






『はあと』 vol.10  便秘を治すための養生と漢方治療


毎日快便があることは人生の大きな喜びのひとつでしょう。便秘といっても中高年者では大腸癌、大腸ポリープなどが隠れていることもあり、大腸内視鏡などの精密検査を受けておくことがまず大切です。
さて、日常よくみられる便秘のほとんどは大腸の生理機能の異常から起こる「機能性便秘」で、常習性便秘といわれるものです。筆者自身、若い頃から悩みましたが、私には緩和な下剤として酸化マグネシウム(カマグ)、水酸化マグネシウム製剤(ミルマグなど)などが適当でした。とくに後者を好んで自ら用います(健康保険適用。市販品もあり)が、便を軟化して排便させ、腹痛を伴わないのでおすすめです。
便秘の原因として、朝の食後の便意をこらえるという長年の生活習慣が大きいといわれます。朝食後、通常、「胃大腸反射」により便意が起きますが、がまんを重ねていると便がたまっていても次第に便意がにぶくなり、常習便秘になるというものです。長年の経験から、現実的な便秘治療法としては、その人に合った便秘薬の助けを借りながら、朝起床後は一定の時間に必ずトイレに行き、便が出ても出なくても便器に5分や10分間は座り、排便する習慣をつける、ということがよろしいのです。
漢方では便秘にたいして、「大黄甘草湯」(だいおうかんぞうとう)、「調胃承気湯」(ちょういじょうきとう)、「麻子仁丸」(ましにんがん)、その他の瀉下剤、「桂枝加芍薬湯」(けいしかしゃくやくとう)、「大建中湯」(だいけんちゅうとう)などの温裏剤(おんりざい)「桃核承気湯」(とうかくじょうきとう)、「通導散」(つうどうさん)などの「駆瘀血剤」(くおけつざい)などから、個々の患者さんに合った製剤が処方されます。胃腸虚弱者、高齢者、病後などの便秘には「麻子仁丸」(ましにがん)が第一選択です。女性でストレスが多く、いらいらしがちで便秘するタイプには「加味逍遙散」(かみしょうようさん)、婦人科や外科の開腹術後の癒着障害による便秘、お腹のはりには「大建中湯」(だいけんちゅうとう)がよく効きます。肥満し、赤ら顔で胃腸が丈夫な実証、熱証タイプには「防風通聖散」(ぼうふうつうしょうさん)が適応します。
食生活では、なにを食べると良い、という発想は疑問です。むしろ、食べ過ぎない、早食いしない、腹八分目、が大切ではないでしょうか。多忙な人では朝、昼食は軽くして、夕食は自宅でくつろぎながらバランスよく、楽しく食べるというのがよろしいでしょう。私は日本人にはごはん(米)を主食とした和食のシンプルな献立がよろしいと思います。