ドクター山内の漢方エッセイ

くらしに役立つ東洋医学
連載原稿 山内 浩






アトピー性皮膚炎と漢方併用治療(その3)


【食生活の改善(食養)について】

日本型の食生活に学ぶべきことが多いと私は考えております。

1)和食中心 がよい。
ごはん(米)、みそ汁、豆腐、納豆、根菜類(大根、人参、ごぼう、里芋、山芋など)、おひたし、小魚、白身の魚、ゴマ、海草類、つけもの、などからバランスよく、できるだけ摂るようにしましょう。発酵食品を増やしたいものです。
また、ごはんを主食とした、シンプルな献立でよい、と思います。

2)過食しないように気をつける。腹八分目が大切です。
3)甘味(チョコレート、ケーキ、まんじゅう、など)、多脂肉、揚げ物にはご注意。
4)冷飲食(ビール、ジュース、アイスクリーム、刺身など)を摂りすぎない。  
5)飲酒家は適正飲酒量を守る。
甘味、冷飲食、飲酒量が過ぎますと、漢方的に湿熱、血熱といわれる熱と余分な水が体内にたまることにより、湿疹、皮膚炎を助長、悪化させる要因になると考えられております。

【その他の養生について】


1)便通の調整、排便を十分に

便秘は湿疹を悪化させる大きな要因のひとつでしょう。大黄末、大黄甘草湯、調胃承気湯(ちょういじょうきとう)、麻子仁丸(ましにんがん)、その他の瀉下剤、桂枝加芍薬湯、大建中湯(だいけんちゅうとう)などの温裏剤(おんりざい)、活血、駆瘀血作用をもった桃核承気湯、通導散(つうどうさん)などから個々の患者さんに合った製剤が処方されます。
西洋薬の緩下剤としては、塩類下剤のミルマグ(水酸化マグネシウム製剤、健康保険適応。一般用市販品もあります)がおだやかでよろしいかと思います(十分量の生水とともに服用する)。

2)皮膚の清潔を保ち、生理機能を高める

『皮膚は内臓の鏡』と申します。漢方医学でいう瘀血(おけつ。ふるち。血の滞り、血行不良、血の汚れ)の症状は皮膚にも現れます。
顔や口唇が赤黒い、皮膚が褐色調になる、しみが多い、肌あれがひどい、吹き出物が多い、あざができやすい、出血しやすくなる、などは瘀血のサインです。
多くの生活習慣病(高脂血症、狭心症、高血圧、動脈硬化、糖尿病など)、更年期障害、婦人病なども瘀血状態になります。前述したように、アトピー性皮膚炎で皮膚が肥厚し、ざらざらになる症状(苔癬化)も瘀血が関与しています。 
漢方では、瘀血を取りのぞく薬(駆瘀血剤)を用いて治療します。桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、通導散などや、サフラン、市販薬では中将湯、冠元顆粒(冠心二号方)、田七人参(三七)などは代表的な瘀血治療薬です。いわゆるドロドロの血をサラサラにして血の巡りをよくし、血栓形成を予防し、美肌効果もあるとされております。

さて、この皮膚の健康法をひとつご紹介しましょう。それは、入浴後には必ず冷たい「水かぶり」、をすることです。一般には水道のシャワー(摂氏16−20度前後、冬は温かめの水温で)を1分間浴びればよろしいです。下半身と上肢と顔だけかけても効果があります。   
肌をひきしめ、きめがこまかくなり、美容によろしいです。温浴だけのときの発汗しすぎをおさえ、皮膚呼吸が盛んとなりますので、皮膚をとうして老廃物や毒素が排泄されやすくなります。また寒冷刺激に比較的つよくなり、かぜをひきにくくなるなど、簡単な皮膚の鍛錬法です。さらに、温(副交感神経刺激)と冷(交感神経刺激)をくりかえすことによって、末梢血管が伸び縮みして、血行が良くなり、自律神経のバランスも回復させますので、気分が爽快となります。 
若いころの水かぶりは、副腎皮質を刺激して、内因性ステロイドホルモンの自然な分泌をうながし、虚弱体質やアレルギー体質の改善に有効という研究もあります。夏のうちから訓練しますと真冬でもできます。アトピーの若い患者さんにはとくにおすすめの皮膚機能改善法です。若い人はぜひ勇気をふるって冷たい水かぶりをなさってみてください。
ただし、高齢者や心臓の悪い人はおひかえください。
重症の冷え性の人には、足湯法、半身浴法、靴下の重ね履きなどの冷え対策が優先するでしょう。

3)楽観的、寛容なこころ、をもつこと

精神作用がもっとも重要であろうと思われます。なにごとにも感謝、感謝、良くなる、良くなる、という、前向きな気持をもちつづけることがとても大切であると考えております。

【おわりに】

アトピー治療は現在、現代医学的にステロイド外用剤、プロトピック軟膏を適切に正しく用いること、スキンケアをしっかり行うことがもっとも重要です。その上で、漢方(随証治療)、そしてもしできれば養生によって体質改善をはかり、自然治癒を促進してゆくことがより有効であると考えられます。
そしてなによりもまず、患者さん自身が主体的にとり組み、「必ずよくなる、治る」、というような希望と信念に満ちた治療と自己管理ができるよう、医師として支援し、また見守ることができれば、と思う次第です。

【参考文献】

1)坂東正造:山本巌の漢方医学と構造主義。病名漢方治療の実際。メディカルユーコン、2002
2)江部康二監修:改訂版 ステロイドの上手なぬりかた・やめかた。アトピー・ネットワーク・リボーン、2003
3)江部康二、松本哲宜監修:プロトピックの上手なぬりかた。アトピー・ネットワーク・リボーン、2003
4)山内 浩:つるかめ先生のアトピー養生記。第1〜17回。リボーン: Vol.63〜79,2002〜2006、に連載。
5)山内 浩、他:アトピー性皮膚炎に対する当帰飲子合黄連解毒湯加減(煎剤)の臨床効果。アトピー性皮膚炎の漢方治療。p148―156,東洋学術出版社、1996